五月の雨

雑記

2017.9.1

 

病院の待合室で、隣に座る女性に話しかけられた。

 

「浮気ってどう思う?」と聞かれたので、僕は「結構ありふれてるけれど、自分はしたくないですね」と答えた。

 

するとその女性は「私、60代の彼氏がいるんだけど…」と語り始めた。相手も既婚者らしい。

そのあと、「私何歳に見える?」と聞いてきた。大変困る質問だ。僕にはその人が40代後半くらいに見えたが、そのまま伝えてしまうのもおっかないので、「30代ですか?」と答えた。我ながら無茶をしたなと思う。

女性は「43歳なの」と答えた。危なかった。

 

若いっていいねえ、と、僕の服装とか、肌とか、髪色だとか、色々と褒めてくれた。それから50代から70代のおじさんを落とすメール術だとか、ラーメンの食べ方どとか、カラオケの曲のチョイスだとか、色々と教えてくれた。彼女は小太りだけれど、ふかふかした手の指先にのった桜色の爪が可愛らしかった。

 

「たとえ相手に、自分が絶対敵わないような女がいたとしても、嫉妬しちゃ駄目なの。男の一枚上を行かなきゃ駄目なの」

 

それは分かる気がする。彼女の言葉には妙に説得力があった。

 

「あなたはまだ、深い深い女の情念を歌ったことはないでしょう?」

 

わからん。

 

43歳の彼女は、中身が僕の5000万倍ぐらい乙女だった。精神年齢が低いのか高いのかわからない。どちらでもあってどちらでも無い気がする。とても不思議な人だった。

 

最後に彼女は、避難は絶対にしなさいね、生でするときは外に出してもらいなさいよ、絶対ね、絶対よ、と散々念を押して、診察室へ向かって言った。彼女とはまたいつか、どこかで出会う気がする。

 

 

病院の帰りにいつものカフェに寄り、アイスコーヒーを注文した。店内は平日の午前中宜しく、僕以外に客は誰もいなかった。

 

いつも着物で接客している定員さんが私服だった所為もきっとある。どことなくいつもより寛いでしまって、ついつい長居をしてしまった。

 

 

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行くたび少しずつ店内が変化している。

文学全集の数だったり、ガラス細工のコーナーが少しだけ広くなっていたり、申し訳程度の瀬戸物がこぢんまりと置かれていたり、よく見るとそれが100円で売られていたり。僅かな変化なのだが、それを見つけられるとなかなか嬉しい。

 

初めて行った時は、僕が史上最悪の状態のときだった。病院帰り、母に無理やり掴まれて連れてこられた。そのとき食べたジェノベーゼがとても美味しくて、食欲がなかったはずなのにぺろりと平らげてしまった。

 

メニューを開くと最後のページにやっぱりあった。プチトマトが添えられたジェノベーゼ

食べたかったけれど、家で昼食を作らねばならなかったので、我慢した。

 

店内の様子が少しずつ変わるように、僕も少しずつ変わってゆく。この店に足を運ぶたびに、今の自分の状態を確認する。始めに来た日が何もかもに絶望しているときだったのも大きい。あの人の自分比べることができる。

 

このカフェは自分の位置がいまいちわからなくなったら行く場所だ。

もちろん、ただ美味しいものを堪能しに行く場所でもある。

 

次はジェノベーゼと、小倉アイスと、紅茶を頼もう

 

 

 

皐月